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小出隆規 教授 Takaki, Koide
化学・生命化学科/化学・生命化学専攻

小出隆規 教授 Takaki, Koide

略歴
京都大学薬学部製薬化学科卒業
1994年京都大学大学院薬学研究科博士課程修了、博士(薬学)取得。製薬メーカー、米国ジョスリン糖尿病センター研究員を経て、京都大学再生医科学研究所にて、旧科学技術振興事業団CREST研究員に。徳島大学工学部、新潟薬科大学で教員として勤めたのち、2007年より現職。

主な担当科目
生命化学A、化学C、生命化学D

コラーゲンと言えば、美容や健康で注目が集まる物質です。ところが、小出先生は、美容や健康のためにコラーゲンを摂取することは、ほとんど意味がないと説明します。「コラーゲンの原材料は安価で手に入るため、商売としては儲かるかもしれないが、効果の科学的根拠はほとんどない」のだそうです。
では、小出先生は、どのようにコラーゲンを活用しているのでしょうか?

コラーゲンに注目する3業界

コラーゲンは、主に次の3つの業界において注目されています。1つは、コラーゲン配合の健康食品やサプリメントなどを扱う健康食品業界、もう1つは、肌の保湿や弾力性の維持などを目的とした化粧品業界、そして最後に再生医療を含む医療業界です。これらの中で、健康食品の摂取による研究成果の多くには、率直に申し上げて眉に唾を付けざるを得ません。

小出隆規 教授

巷でよく見かける、美容あるいは健康食品の宣伝広告では、「老化によりどんどんコラーゲンが減少する」などとよく書かれていますが、この表現は正しくないと思っています。コラーゲンは人間の体でもっとも多いタンパク質で、体重の3分の1から4分の1を占めています。皮膚・骨・血管などはすべてコラーゲンを主成分としてできているわけですから、これがはっきりわかる形で減少すると、生きていけません。ですから、「老化でコラーゲンが減少する」といった表現を見るたびに、「ちょっとなんとかしてよ〜」と思ってしまいます。

もうわかったかと思いますが、私が取り組んでいるのは、3つ目に紹介した医療に関連する分野です。

人工コラーゲンもどきを作る

私たちが取り組んでいる研究をいくつか挙げましょう。まずは、「人工コラーゲンもどき」の作製です。

昨今、iPSのような多分化能幹細胞の研究が進んだことによって再生医療が注目されていますが、これらの幹細胞を培養する際に、コラーゲンが使われる場合があります。従来では、牛や豚などのコラーゲンが使われていましたが、狂牛病がまん延したことをきっかけに、家畜より得たコラーゲンの安全性が疑問視され始めました。そこで、安全性が担保された人工コラーゲンへの期待が高まってきたのです。

人工コラーゲンもどきの構造

コラーゲンは、1000個ほどのアミノ酸が結合した3本のポリペプチド鎖が寄り集まることによって構成されており、グリシンが3残基おきに配置された【グリシン】-【アミノ酸X】-【アミノ酸Y】の繰り返し配列を基本構造とします。その中でも、【グリシン】-【プロリン】-【ヒドロキシプロリン】という配列が特に多く存在しています。コラーゲンでは、これらのポリペプチド鎖が縄をなうように巻きつき、三重らせんを形成しています。天然のコラーゲンの多くは、この三重らせんがさらに寄り集まることで、コラーゲン線維と呼ばれる太いロープのような構造を形成します。ですから、強度と安定性に優れ、加工もしやすいのです。このことは、革製品の主成分がコラーゲンであることからも納得できると思います。

一方、天然コラーゲンのように線維を形成する能力を人工物に付与するのは、技術的にかなり困難であり、私たちは細い糸のようなものしか作ることができません。うまく作れた場合にはゲル状になりますが、それでも力学的性質は悪いと言わざるを得ません。革製品と比べれば、鼻水のようなものだと言えるでしょう(笑)。

つまり、「人工コラーゲン」というのもおこがましいので、私たちは人工コラーゲン的なものを「人工コラーゲンもどき」と呼んでいます。いつの日か、「もどき」を外せるように私たちは日夜研究に励んでいるのです。