- トップ
- 先進 Top Runner
- 第1回 応用物理学科/物理学及応用物理学専攻 竹延大志 准教授
略歴
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科博士課程修了後、2001年に博士(材料科学)取得。
ソニー(株)フロンティアサイエンス研究所、東北大学金属材料研究所助手、准教授を経て、2010年4月から現職。
主な主担当科目
電磁気学B/物性物理特論A/パイ電子材料研究
代表的な著書
・有機半導体デバイス-基礎から最先端材料・デバイスまで-, オーム社, 2010年
・有機トランジスタ材料の評価と応用U、シーエムシー出版、2008年
・インクジェットプリンターの応用と材料U、シーエムシー出版、2007年
私たちのまわりには、携帯電話やPC・テレビなどをはじめとして実に多くの電子機器があります。これらの電子機器の中には必ず電子部品(デバイス)が入っており、デザインを除けばこの大きさや性能によって電子機器の特徴が変わります。近年では、この電子デバイスを、従来のガラス基板上ではなくプラスチックなどの柔らかい素材の上に作り、薄くて軽量・丈夫な電子回路を実現するフレキシブルエレクトロニクスの研究が進んできました。一方、インクジェットプリンタの技術を応用して狙った場所に狙った量を滴下して電子デバイスを作る、省資源・省エネのプリンテッドエレクトロニクス(インクジェット法)の研究も盛んです。応用物理学科准教授の竹延大志先生は、この両方の技術に向いているとされる、有機材料・炭素系材料などのパイ電子材料を用いて様々な「柔らかい電子デバイス」の作製にチャレンジしています。
パイ電子材料との出会いは先生との出会いから
学部4年生のときは、磁性体の物性理論を研究していました。私は学部とは別の大学院に進学したのですが、そこでも理論系の研究を続けようと考えていました。ですが、研究室配属までの半年間に色々な先生の話を聞いたり研究室を見せて頂いたりしているうちに、実験系の研究も楽しそうに思えてきたのです。そもそも修士1年生の分際で、各先生方が無限ともいえる物理学のトピックスの中から選びぬいて長年続けていらっしゃる研究テーマを完全に理解するのは難しいですから、最終的には先生その「人」を見て決めました。配属先の先生が研究していらしたのがパイ電子材料、具体的にはフラーレンという物質で、それ以来の付き合いになります。
カーボンナノチューブ(CNT)との出会い
フラーレンの同素体であるカーボンナノチューブ(CNT)との出会いは学生時代ではなく、博士号を取得して企業の研究所に就職したときです。それまでは、固体物理の観点からみて「汚い分子」であるCNTを毛嫌い(笑)していたのですが、やってみたら案外これも楽しかった。半年後には大学院時代の恩師に助手として呼んで頂いたため企業に在籍した時間は短かったのですが、CNTの研究は今も続けている大事なテーマとなっていますし、当時の上司たちとも共同研究するなど良好な関係を築いています。企業の人の視点やメンタリティを知ることができたことも、人生の上でとてもプラスになっています。
二つの両輪となる研究テーマの成立:相互作用しながら次第に発展
大学に戻ってすぐ始めたのが有機トランジスタです。この頃から、有機トランジスタとCNTが私の中で大きな研究の両輪になりました。CNTの研究は、物理的性質の探究という基礎寄り、有機トランジスタはその名の通り有機材料を使ったトランジスタの構築というもので、かなり指向の違うテーマでした。 CNTとトランジスタを組み合わせるきっかけとなったのが、インクジェット法との出会いです。2000年頃から、インクジェット法を使ってトランジスタを作ろう、というブームが起こっていたのですが、なかなかモノになっていませんでした。というのは、有機材料は有機溶媒に溶けるのでインクジェットのインクとして利用しやすかったのですが、材料として柔らかいというメリットがある反面、抵抗が高いためトランジスタとしての性能があがらないというデメリットがありました。そこで、有機材料の代わりにCNTを使うことにしたのです。CNTと有機トランジスタ、二つの研究テーマを続けていて双方の特徴をよく知っていたからできたことだと思います。2007年当時の成果として、インクジェット法で作成したトランジスタとしては世界最高レベルの性能を得ました。