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小柳津研一 教授 Kenichi, Oyaizu
応用化学科/応用化学専攻

小柳津研一 教授 Kenichi, Oyaizu

略歴
1995年早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了、博士(工学)。1995年早稲田大学 助手、1997年早稲田大学理工学総合研究センター 講師、2003年東京理科大学界面化学研究所 助教授、2007年早稲田大学理工学術院 准教授を経て2012年4月から現職。

主な担当科目
応用化学入門/高分子化学/上級有機化学B/機能高分子化学/高分子合成化学演習A・B/有機化学特論B/生体高分子特論

「高分子」は私たちの生活を様々な形で助けてくれています。体を構成するDNAなどの核酸・タンパク質や多糖類などの天然高分子から、プラスチック、合成繊維、合成ゴムなどの合成高分子まで、挙げればきりがありません。合成高分子の多くは既に容器や布、タイヤなどの構造材料として用いられていますが、近年では高分子そのものもつ特徴的な性質(機能)に着目した新たな用途開発が進んでおり、それらを総称して「機能性高分子」と呼んでいます。この機能性高分子のエネルギー変換システムへの展開を追究しているのが、応用化学科の小柳津研一教授です。

基礎と応用、両方の視点を同時にもてる応用化学

基礎と応用の応用化学

化学の実験は結果がすぐに得られます。フラスコに“仕込んだ”化学反応は、1〜2時間もすれば何らかの生成物になるので、その結果を見て次の実験のアイデアを練り、また実験で試すことができます。このサイクルを自分で工夫しながら進められることが、化学の楽しさの一つだと思います。化学反応や物質の性質を明らかにすることは、それ自体に普遍的な価値があります。「化学の力」で社会を支え人間生活を良くするために新しい材料やエネルギー技術を創りだすことは、さらに大きなやりがいのある仕事です。基礎研究の先にそのような応用分野があることを漠然と期待して、学科として「応用化学」を選び、早稲田大学に入学しました。入学時に配布された「学生の手帖」に、総長(当時)の西原春夫先生が「人の幸せこそ学問の目的」という内容のことを書かれていて、これが「応用」という意味を深く考えるきっかけになりました。

分子機能を設計し、実現させる

高分子は生活や環境を構成する材料としてだけでなく、機能性高分子として分子機能を設計し実現することができます。化学式に書いた分子構造から、分子の物性を予測して、それを実際に引き出せることに興味を持つようになりました。学部3年生の授業で、当時の高分子研究室で撮影したという赤血球と白血球が融合している様子の電子顕微鏡写真を見たことも、高分子に興味を持つひとつのきっかけになりました。

Fred Anson先生と小柳津先生
図2 Fred Anson先生と小柳津先生

化学反応は目に見えない分子の変換なので、反応を外から眺めるだけでは、化学構造式に書かれた分子1個1個の性質を知ることは不可能で、アボガドロ数個の分子集団のふるまいがデータとして得られるのみです。ところが、反応溶液に電極を差し込んでエネルギーを制御しながら反応速度などを精密に測定すると、1個の分子や電子の振る舞いを知ることができます。実験データから、電子が段階的に1個ずつ動いたり、連れだって何個も協奏的に移動したりする様子を説明することもできます。卒業研究でその手法を学んだ後は「電子の動きをいかに制御して、今まで難しいとされてきた重合反応を実現するか」という課題に取り組むようになりました。土田英俊先生、西出宏之先生にご指導いただいて修士・博士課程と研究を続ける中で、高分子合成だけでなく、結晶解析や電極反応の基礎についても学び、さらに、電気化学のFred Anson先生(カリフォルニア工科大学)、配位化学のHenry Taube先生(スタンフォード大学)のところでも研究させていただく機会に恵まれました。アメリカ人の先生と1対1、しかも慣れない英語…1時間程度のつもりでお願いした黒板の前での研究打合せは、夢中になって議論しているうちにあっという間に5〜6時間過ぎてしまうこともよくありました。また、自分としてはそろそろ論文としてまとめたいと思っていても、教授から渡されるTo Doリストの実験項目は増えるばかりでしたが、いろいろな角度から徹底的に考えることの大事さを学びました。