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世界初の有機レーザーを作製し、様々な色を自由に発光させたい

この2〜3年は、有機発光トランジスタの開発に取り組んでいます。CNTでは原理的に可視光を発光できないので、「適材適所」ということで有機材料を使っています。
無機レーザーは既に実用化されていますが、材料自体・発光色の種類が少ないのが難点です。一方、有機材料は合成技術がかなり発達しているので、無限と言ってもよいほど多種の材料を作ることができます。その中には様々な色の材料があり、さらに極めてよく光るものもあります。照明や携帯のディスプレイに利用されつつある有機発光ダイオードがその活用例です。発光ダイオードができると分かると、次の技術的な目標はレーザーになります。例えば無機発光ダイオードは信号灯に、無機レーザーはDVDやBlu-ray Diskの書き込み・読み取りチップに使われているように、適した用途がそれぞれにあります。有機発光ダイオードが実現できていますから、原理的には多様な材料に起因した多様な色の有機レーザー光を得られる可能性があるのですが、レーザー光を発振させる技術がまだ追いついていないという状況です。その理由の一つが先ほども挙げた「高抵抗」です。レーザーを発振させるためには電流を沢山流す必要があるのですが、抵抗が高いため電流を流すと熱を発生してしまい電子デバイスとしては使い物になりません。「それならダイオード構造ではなくトランジスタ構造で作ろう」というのが私のスタンスです。トランジスタはダイオードと比べてかなり抵抗が低く電流を沢山流すことができ、実際に発光現象がすでに得られています。レーザー発振の一歩手前の兆候までは見えていますので、あとどれだけ電流を流せば発振するかをつきとめているところです。ひとたびカラフルな有機レーザーを作れるということを示せたら、多くの人が興味を持ってその応用や用途を考えて下さるはずですから、今までにない新しい市場が開けるかもしれません。

インクジェット印刷のスナップ写真
図3 発光トランジスタの測定の様子(上)と有機トランジスタの発光例(下)

インクジェット法で様々な電子デバイスをつくる

有機レーザーを作ることができたら、次にそのレーザーデバイスをインクジェット法で作成したいと思っています。さらに、同じくインクジェット法で作ったCNTトランジスタや配線などと組み合わせてインクジェット法だけで電子回路を作りたい。組み合わせ次第で様々な機能を持った回路が作れるはずです。ただし「言うは易し、行うは難し」でして、この実現のためにはまだ課題が山積みです。発展途上のインクジェット法を改良しつつその適用範囲を広げるというのが、2011年2月に採択された内閣府の事業である「最先端・次世代研究開発支援プログラム“超高性能インクジェットプリンテッドエレクトロニクス”」で実現しようとしていることです。

研究人生は始まったばかり

昨年早大に着任して、「70歳まで研究教育を続ける権利」を頂きました。私は今30代後半ですから、研究人生の始まりを大学院入学と考えたらまだ10年程度で、残りの人生の方が長い。ですから、一つのことに固執せず、どんどん新しいことにトライしながら究極の夢を探していきたいですね。挑戦を続けることで現在の研究テーマにも良い刺激があるでしょうし、その気持ちを忘れたくないと思っています。
学部生や大学院生にも「あなたが何か良いアイデアを持っているなら是非それをやりましょう」と言っています。勿論、私がそのアイデアの面白さに納得できたら、ですが(笑)。しっかりした裏付けがあった上で、他の人があまりやらない・違うアプローチを実行する。皆をあっと驚かせるようなことが実現できれば、それは面白くて意味のある研究だと思います。

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