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味噌が示した抗ストレス作用

2017年3月まで行っていた農林水産省の研究プロジェクトで、味噌から抗ストレス作用のある物質を見つけることができました。味噌の発酵過程で作られる物質が、ヒストンタンパク質の修飾を変化させることが分かったのです。同時にこの物質には、神経幹細胞からアストロサイトという神経細胞への分化を促進する効果も確認できました。アストロサイトは脳内の海馬という組織にあり、うつ状態になるとその数が減少してしまうことが知られています。そこで、この物質を与えたマウスと、与えなかったマウスに、それぞれ1週間ストレスを与えて比較してみたところ、この物質を与えたマウスで抗うつ作用が認められました。
これらの研究結果は、「毎朝、一杯の味噌汁がうつ病を防ぐかもしれない」という期待を生みました。現在は、食品メーカーと共同で商品化につなげられるか模索しているところです。
食品の機能性の解明は、国が進める予防医学の分野とも関連するため、この先の研究では医学だけでなく、スポーツ科学など関連の分野とも連携したいと考えています。また、大学院情報生産システム研究科とともに、膨大な遺伝子データの解析にAIを利用することも考えています。早稲田には多様な研究をしている教員がいるため、こうした学内のネットワークを強みとして研究に生かすことができます。

機能性のある味噌の試作品

大学で運命の出会いをしよう

私の研究分野は食品や生物に関わるので、現場第一主義です。海洋生物の研究では、生物を採集するために自ら海に潜り、生物がどのような環境にいたのかなど、目で見た記憶も研究に生かします。食品の機能性の研究でも、味噌メーカーと連携して仕込みの現場を見るなど、目で見て肌で感じることを基本にしていくつもりです。もちろん研究はうまくいくことばかりではなく、壁にぶつかることもありますが、味噌汁を食べたり、海洋生物を飼育したりと、明るく楽しく研究を進めています。「早稲田の理工」というと、ロボットや建築といった、伝統的な理工学のイメージを持つ方も多いと思います。もちろん、伝統ある研究分野を大切に守ってゆくことは基本ですが、私は早稲田の学生の特長である遊び心や明るさを生かして、勢いのある新しい研究分野を切り拓いてゆきたいと考えています。そこから人間の健康につながる成果が生まれれば、こんなすばらしいことはありません。
私は、学生生活は「自分が何をしたいのか、何をしたら楽しいと思うのか」を見つけられる場所だと思います。これまではルールに従った勉強をしっかりと身に付けてこられた皆さんですから、大学では理工学術院の学生として、研究でも運命の出会いをしてほしいと願っています。出会いのヒントは、学内にたくさんあるはずです。

この記事は「理工学術院パンフレット (2018年4月発行) 」に掲載された内容を基にしています。