先進 Top Runner

解析手法の開発を武器として、多様な分野の研究者とコラボレーション

工学部で学んできたためか、必要とする解析手法の技術開発を自分で行う姿勢が身についたと思います。例えば、半導体加工技術を応用して作られた幅数十マイクロメートル(μm)程の微小流路を有するデバイスを用いてマイクロビーズを高速生成し、微生物を個別封入することで新しい単一細胞=シングルセル解析ができる実験系を立上げました。この手法を用いると、個々の微生物のゲノム情報や生産する物質などを解析することができ、培養できない微生物を解明する手掛かりを得るための強力な武器になると考えています。また、1秒間に1000個程度のドロップを作成可能なことから、各ドロップを反応場とした超ハイスループットスクリーニング(探索)も可能となります。また、ラマン分光法を用いて、微生物が生産する物質を、細胞を破砕することなく解析することが可能になり、有用物質を生産する微生物をシングルセルレベルでスクリーニングすることも可能となってきています。

Cancer Research UK時代

図1 マイクロ流体工学を用いたマイクロドロップレット作製

当初は私自身が必要に駆られてこのような研究を展開してきましたが、学会発表や共同研究などを通して、自分以外にもその解析手法を欲している研究者が沢山いることが分かり、それまで以上にツール開発に力が入るようになりましたし、どんどんこれらの技術を提供しています。また、シングルセル解析は、海洋微生物のみならず、再生医療で着目されている心筋細胞や神経細胞、がん細胞から酵母、ホヤに至るまで幅広い細胞を対象として、各細胞のエキスパートと共同研究を行っています。また最近では、遺伝子解析により得られるビッグデータを蓄積して活用するバイオインフォマティクスの領域にまで踏み込む必要に迫られて、いまだに勉強の毎日です。このバイオインフォマティクスに代表されるように、生命系の研究者や技術者であっても高速化大量化する分析データを適切に扱い、利用するスキルを身に付けることが不可避になるでしょう。いち教員として、社会に必要とされる人材を育成する責任があります。私1人で全てを教えることは難しくても、早大が包含する幅広い分野の教育・研究者と、時には学外・国外の先生方とも連携しながら、理想とする教育も実現すべく奮闘しています。

研究室の様子
写真4 研究室には国内外から多くの共同研究者が集い、活発な議論が行われている

新しい研究領域で新しいことに挑戦し続ける

マリンバイオテクノロジーはまだ新しい研究領域ですが、特に、四方を海に囲まれた日本にとって、継続的に推進する必要があります。ここで開発した技術や手法を多くの研究者にどんどん活用してもらうことで、日本におけるマリンバイオ、バイオサイエンス研究の発展に貢献できたら嬉しいですね。私自身も含めて研究者は、周りをよく見て、どんな技術があり、どのように利用したら新しい発見ができるか、どんな連携が可能かなどを常に考え、積極的にアクションすることが必要です。学生にもそのマインドは持ってほしいと常日頃から話をするように心がけていますし、彼らが次の時代を背負って行くことを考えると、とても期待が膨らむ毎日です。サンゴ礁研究では、船に乗らなくてはサンプリングができませんが、東京育ちの学生は意外に船に乗って自分が船酔いするかどうかを知る経験もしたことがないことが多いのに驚きました。今は、研究室のどの学生が船に強いかわかっており、それによって人選してサンプリングに行っています。教育者・研究者人生も残り時間が少なくなってきましたが、守りに入るのではなく、これからも新しいことに挑戦し続けていきたいですね。

研究室の様子
写真5 TWIns(先端生命医科学センター)のオープンラボでは、学生も日夜実験に励む

聞き手・構成
武末出美(早稲田大学アカデミックソリューション)