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沢山の研究を結び付けて新しいモノを作る

応用化学科の教員になって27年経ちますが、実は現在のテーマに至ったのはほんの数年前で、その時々で夢中になって取り組んできた要素研究が、ようやく実を結びはじめた、という状況です。例えば、MITからの帰国直後から取り組んだのは酸化物高温超伝導体を探索するという、「化学」というよりもむしろ「固体物理」の研究でした。またもゼロから勉強し直し、試行錯誤しながら10年ほど携わった末、最後にたどりついた材料が層状ペロブスカイト型化合物でした。超伝導体としての性質を見出すことはできませんでしたが、転じて、現在ハイブリッド材料の無機成分として活用しているのです。

最近の研究のテーマは「層状ペロブスカイト型化合物のナノ層間に物質を導入して新機能材料を作り出す」という、卒業研究時代に立ち戻ったようなシンプルなものでしたが、導入する物質ごとに得られる性質は異なり、適応範囲は広大です。たとえば、アルコールや有機リン化合物であれば、グラフト反応によって層(シート)を表面修飾することができます。ここにリチウムLiイオンを導入することによって、電池の固体電解質に使えるLiイオン伝導材料になります。現在は、グラフト反応した後に層をバラバラにし(剥離)、得られるナノシートをポリマーに少量加え、ポリマーの特長を維持したまま新しい機能を付与する方向に研究を展開しています。

量子計測の例

層状ペロブスカイト型化合物の可能性

無機化学、有機化学、有機金属化学、高分子化学、固体物理、電気(炉)、分析、計測…様々なテーマに携わり、その度に当該分野のエキスパート(熟練した研究者)とディスカッションして情報や知識を蓄えてきました。この経験こそが私の研究の根幹を成すものです。自分には全く関係ないな、と思うレベルも含めて、情報を集めたり、様々な研究者とディスカッションしていくと、ある時ピンとくるのです。これとこれを掛け合わせたら面白そうだな、良い機能が得られそうだな、と。ですから、ひとつひとつの技術は他にエキスパートがいるケースも多いのですが、それらを組み合わせる技術、合成した材料は間違いなく、私だからできることだと思っています。

無機や有機の垣根のない「化学」を

ここ数年はナノ粒子にも展開しており、ナノ粒子やナノシートを様々な高分子と組み合わせ、優れたハイブリッド材料を作り出す、というフェーズにようやく入りました。今後はさらに精緻にナノ材料を扱い、試行錯誤しなくても、欲しい機能を持った材料を無駄なく構築する技術を磨いていきたいと考えています。

高校では無機化学と有機化学、全く異なる単元として習います。実際に、物質的にも取扱い手法的にも大きく違うことを身を持って知っていますが、だからこそ、両者の間に境界を設けずシームレスに考えられる共通言語のような学問を生みだしてみたいですね。ハイブリッドの概念からさらにもう一歩先に進むことで、見えてくるのではないかと期待しているところです。

聞き手・構成
武末出美(早稲田大学アカデミックソリューション)