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気体反応から液体・固体の反応観察への転換

現在の研究テーマである光を用いた計測(分光法や光学顕微鏡観察)に取り組みはじめたのは、博士号取得後になります。学生の頃の対象は「気体、もっというと1個2個の原子・分子」でしたので、少し違うもの(複雑なもの)=液体や固体も相手にしてみたいと思い、分子研(大学共同利用機関自然科学研究機構分子科学研究所)で新たな研究生活を始めることになりました。実は、少数の分子の反応はモデルを比較的単純にすることで説明できるのですが、液体や固体中の反応は、多数の分子の衝突や相互作用を考える必要がありますし、また物質によってそれらの特徴が大きく異なるので、理論的解明・実験での実証は共に困難を極めます。分子研での研究開始当初はその違いに戸惑うばかりでしたが、3年目を越える頃から次第に学生時代の知識も活用できる、少数の分子の反応を良く知っている自分だからこそ持てる視点があるという意識が強まり、自らの研究を組み立てていくことができるようになっていきました。

貴金属ナノ粒子の不思議を“観”る

2009年度から現職となりましたが、昨年度発見した成果(大学プレスリリース「ナノの覗き孔は、塞ぐと光がよく通る!?貴金属ナノ粒子の特異な光学的性質」、JST Science News「ナノの世界でのみ観測される貴金属粒子の新しい現象を発見」)も先の意識の中から得られたものです。

染色体の構造

貴金属の代表格である金(きん)は何色?―このように聞かれたら、おそらく多くの方々が「金色」と答えるでしょう。しかし、ナノサイズ(1ナノメートルは1ミリメートルの1/100万)まで微粒子化した金を混ぜた液体や固体は「赤色」に見えます(例えば、ステンドグラスの赤色は、この金微粒子を混ぜたガラスで表現されています)。このような現象を示す原因は貴金属ナノ粒子表面に現れるプラズモンという電子状態によるものですが、プラズモンを持つ物質の機能を光(エネルギー)によって制御したいと考えて研究を進めています。新たな光反応・光計測方法を編み出しながら物質機能に対する理解を深め、最終的には新たな分子の反応原理を見出したいと考えています。これは、振り返れば、最初にお話しした高校生〜学部生の頃の「分子一つずつを衝突させたときの反応を知りたい」という夢がかなうということになるかもしれませんね。

近接場光学顕微鏡(左)と金ナノロッドの観察例(右)
図2 近接場光学顕微鏡(左)と金ナノロッドの観察例(右)
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