卒業生に聞く!

Graduate Interview

分かりやすく正確に「伝える」ことで、医療の価値を高める 大鵬薬品工業株式会社 土澤 美希 様 【 略 歴 】2014年3月、大学院先進理工学研究科生命医科学専攻 修士課程を修了。同年4月、大鵬薬品工業株式会社に入社、MA(メディカル・アフェアーズ)職として勤務予定。

生命医科学科2期生の土澤美希さん。大鵬薬品工業株式会社でMA職として勤務する予定で、現在は研修に励んでおられます。

新社会人として、どのような毎日を過ごされていますか?

入社してまだ3カ月です。今は埼玉県飯能市にある研修センターで、同期らと寝食を共にしながら、自社製品についての知識の習得や仕事に関連する認定試験への準備、プレゼンテーション能力を磨く練習に励んでいます。勉強に取り組んでいるという点では学生時代と共通していますが、医薬品、ひいてはその先の「いのち」に関わる知識を学んでいるのだと思うと、間違えずに覚えなければ、という緊張感があります。

生命医科学科や研究室を選ばれた経緯について、お話し頂けますか?

生命医科学科は、医学・薬理学・工学など多くの学問を習得でき、多角的な視点が鍛えられる点に魅力を感じました。新設されたばかりの学科で、チャレンジのしがいがあるだろうという期待もありました。授業を受ける中で、睡眠や思考、記憶など、身近でありながら未解明の現象が多く残されている脳科学に興味を持つようになりました。また、友人がうつ病を患った際に、その発症メカニズムや根本的な治療方法が分かっていないと知ったことも、脳科学を専門に選んだきっかけのひとつでした。

研究室では、大島登志男先生の指導のもと「ゼブラフィッシュを用いた成体神経新生についての研究」に取り組みました。脳を構成する神経細胞は、大人になると減る一方で増えないということが定説でしたが、近年では、大人のヒトの脳でも増加する神経細胞が発見されています。アルツハイマー病やうつ病など、神経・精神疾患の治療へと応用できる知見を得られる可能性があることから、魚類の脳で神経新生に関わる遺伝子発現を探りました。

研究生活の中で学んだ事や、印象に残っていることはありますか?

大島先生は学生の自主性にゆだねてくださる先生で、自由に色々な挑戦が出来る半面、自己管理や時間の有効な使い方を心がけるようになりました。研究室で初めての実験手法を立ち上げた時は、先行論文を参考にしても実験を再現できずに行き詰まりましたが、オープンラボ(複数の研究室が共有する広い実験室。生命医科学科の特徴のひとつ。)で他の研究室の友人から実験に使う試薬や温度等の微妙な調節についてアドバイスをもらいながら進め、試行錯誤の末新しい知見を得るまでに至りました。異なる分野からの視点が役立つことを実感し、ディスカッションや情報を引き出す面白さに触れられたと思います。

学部の卒業研究発表では、10分という短い時間の中で、背景から考察まで説明しなければなりません。質疑応答の中で、研究成果を誰にでも理解できるように伝えることが、どんなに難しいことであるかを実感しました。光栄にも最優秀プレゼンテーションに選んで頂きましたが、その嬉しさよりも、「伝えたい」内容と実際に「伝わる」内容の間には溝が生じやすいのだという事実が重く心に残りました。有用な研究成果が生み出されたとしても、誤解なく情報が届けられ、的確に扱われなければ、世界や生命に悪影響を及ぼすことがある。最新の科学的知見を正しく伝えることの重要性を強く意識するようになりました。

写真:研修センターで自習をしていると、上司が自社製品のチオビタドリンクを持ってきてくれることも(笑)。就職活動の時、面談前に人事部の方から「頑張って」と手渡された事を思い出します。

職につながる転機となったのですね。

はい。そんな時に、国立科学博物館で「サイエンスコミュニケーター養成実践講座」の生徒募集を目にしたのです。大島先生も快く認めて下さり、修士1年生の夏に受講しました。講師である博物館の学芸員やTVプロデューサー、新聞記者などから、それぞれの仕事における「伝える」ために役立つヒントやテクニックを教えて頂きました。講座の最後には、子供から大人まで様々な層の来館者へ向けて、自分の研究内容を紹介する演習を行いました。科学技術を分かりやすく噛み砕き、意味を正しく伝える術について学ぶ良い経験になりました。

実は、私がもうすぐ第一歩を踏み出す「MA(メディカル・アフェアーズ)職」という職種があることは、この講座を通して知ったのです。生命科学を学ぶ中でも、人との関わりや議論の中に特に興味を感じていた自分にとって、医療に携わる最適の形だと思いました。

MA職は従来は学術職と呼ばれていました。MR(メディカル・リプレゼンタティブ ※注)が営業部門に所属し、自社の医薬品情報を医師へと提供する仕事であるのに対して、MA職はより科学的・倫理的な観点から、医療現場を支援します。科学的根拠に基づいた知見から、疾患領域に関わる医薬品、その作用機序、副作用や効果的な投与方法などについての情報を収集・提供することが役割です。

研修の現場実習で、入社6年目になるMA職の先輩社員が医師と面談する場に同席しました。大鵬薬品工業の強みである抗がん剤について、自社だけでなく他社製品の知識にも通じており、様々な医薬品を総合的に俯瞰したうえで的確にアドバイスされている姿を見て、感銘を受けました。

そのほか、医師との面談や学会で集めた情報を元に、社内の研究開発部に現在の医薬品ニーズや動向をインプットしたり、会社で開発中のこれから世に出る薬について、MRに説明することで営業計画の策定をサポートしたりします。薬の開発から利用まで、様々な段階で大勢の人が関わっています。人が介在するすべての場面において、私たちの役割があるのではないかと思います。

(※注)MR:メディカル・リプレゼンタティブ。医薬情報担当者。多くは製薬企業の営業部門に所属しており、全国で5万人以上が活動している。医薬品の品質、有効性、安全性などに関する情報の提供、収集、伝達を通して、医療従事者に対して医薬品の適正使用を促す者を指す。

今後の目標と、後輩たちへのメッセージをお願いします。

知識をどんどん蓄えると共に、相手を惹きつけ、情報を正確に伝えるコミュニケーション力を磨きたいです。現場実習で会った先輩MAのように、医師と対等に助言し合えるような存在になることで、一人でも多くの患者さんに、よりよい医療を届けたいと考えています。また、大鵬薬品工業はまだMR・MA職の女性社員が多くはありませんが、女性にとっても働きやすい環境が整備されています。今後様々なライフイベントがあるかと思いますが、両立しながらこの仕事を続けていきたいですね。

早稲田大学では、サークル活動やアルバイトも含めて、やりたいと思った事にたくさん挑戦してきました。その分失敗も多く経験しましたが、それらの積み重ねが、今の自分の仕事に結びついています。早稲田は学生たちの自主性を尊重してくれる大学です。自由はプラスにも、マイナスにも働きうるものですが、ぜひ自分を成長させる糧にして、目指す道を見つけてください。

ありがとうございました。
聞き手・構成
會沢優子(早稲田大学アカデミックソリューション)

※所属はインタビュー当時のものです。