卒業生に聞く!

Graduate Interview

目の前のことに全力で取り組み、創薬で人類のQuality of Lifeに貢献する 第一三共株式会社 先端医薬研究所 長内 康太 様 【 略 歴 】2013年3月、大学院先進理工学研究科 生命医科学専攻 修士課程修了。2013年4月、第一三共株式会社に入社後、先端医薬研究所 第三グループに所属。

2007年に新設された生命医科学科、第一期生の長内 康太さん。修士課程を終えて、現在は第一三共株式会社 先端医薬研究所で研究開発に従事していらっしゃいます。

生命医科学科を選ばれた理由を教えてください。

子供のころから虫や動物が好きでした。生物の不思議さ・複雑さに感銘を受け、もっと深く知りたい、と思っていたことから、生物を学べる学科を選びました。早稲田大学先進理工学部には名称に「生命」を含む学科が3つあります。その中でも生命医科学科を選んだ理由は、カリキュラムを見て興味を持ったことが大きいですね。生理学、解剖組織学、薬理学、神経科学など、医学系を含む幅広い分野の科目が用意されていました。また、私が入学する年にちょうど新設されるということで、最先端の知見から教育を受けられるのではないか、という高揚感もありました。

印象に残っている授業は何ですか?

2つあります。まずは「分子細胞生物学」です。生命科学の分野ではバイブルと言われる「Molecular Biology of the Cell」という非常に分厚い本がテキストとして指定されていました。最初は1400ページを超える分量に圧倒されましたが、その教科書から情報・知識を吸収することが面白く、苦にはなりませんでしたね。

もうひとつは「生化学」です。各臓器での代謝をはじめとして生体内化学反応の特性と制御についての講義でした。合田亘人先生が担当されていたのですが、実例を挙げながら病気とも関連付けて、「なぜそうなるのか」という反応の原理から説明してくださり、とても分かりやすかったです。「痛風予防に"プリン体オフ"はあまり意味が無い」といったことを分子反応レベルで教えて下さった点なども、非常に記憶に残っています。

卒業研究・修士研究では、その合田先生の研究室を選ばれましたね。どのような研究に取り組まれたのでしょうか?

大学入学後の比較的早い段階で、将来は創薬の道に進みたい、疾患について学びたいと思うようになっていました。そのためヒト疾患を模した動物モデルを扱っている研究室に入ろうと考えており、合田先生もその1人でした。私たちが第1期生だったにもかかわらず、当時すでに、先生の厳しい研究指導は有名でしたが「どうせなら厳しく鍛えてもらおう」と考え、合田研究室を選びました。卒業研究の1年だけでは、実験技術を習得するだけで精一杯で、十分に研究ができませんでしたので、修士課程まで進み、一貫して「アルコール性脂肪肝における低酸素応答因子(HIF)の生物学的意義の解明」に取り組みました。具体的には、HIFを持つマウスと持たないマウスとが、それぞれアルコールを慢性摂取した際の肝臓における脂肪蓄積量の違いを検証していました。また、何故その違いが生じたかを、分子生物学的・生化学的に解析していました。

この研究テーマを通して、合田先生から研究のイロハをたたきこんで頂いたと思います。ピペットマンの使い方や細胞の扱いなどの基本的な実験スキルに始まり、データの見方、考察へのアプローチ、結論の出し方などに至るまで、研究全般に関して全てです。また、「実験に失敗はつきもの。多少の失敗ではへこたれない、そして、失敗から何かを学ぶ」という精神の強さもここで身に付きましたね。大みそかや正月に交代でマウスの世話をしたことも、研究に責任を持つ、という意味で良い経験になりました。

それらの経験を経て、現在はどのような仕事に従事していらっしゃいますか?

私の所属する先端医薬研究所では、癌研究所および循環代謝研究所が扱っている対象「以外」の新規疾患、特にファーストインクラス(画期的新薬)に特化した研究に取り組んでいます。「最先端の研究」というイメージかもしれませんが、行っていることは非常に地道な研究で、ある病気に対して、薬の標的となりうる分子を探索しています。標的分子が見つかったら、その分子にだけ作用し機能を制御する、有効な化合物を選別していきます(Target-based Screening)。また、分子を直接探索していく方法だけでなく、疾患メカニズムを反映している「現象」に着目したスクリーニング(Phenotypic Screening)も行っています。何をターゲットに、どのように探索していくか、というところが各社各様の戦略であり、新薬をいち早く世に送り出すために、世界中での競争となっています。

ひとつの薬が世の中に製品として出るまでには多くの関門があり、私の携わっている研究が、その第1関門といえます。逆に、その第1関門で見落としや見逃しがあれば、新薬を待っている方々にとって大きな不利益となるわけであり、とても責任重大な仕事だと感じています。この研究に従事する上で、学部4年間と修士2年間で学んだ専門知識は100%、研究スキルは120%(笑)役に立っています。多岐にわたる講義で学んだことも、思考の幅を広げる糧となっています。

今は入社したばかりですので、目の前のことに一生懸命取り組む毎日です。日々の経験を積み重ねていき、いずれは自分で研究テーマを提案し、チームリーダーとして諸課題に取り組んでいきたいですね。世界中の人々のQuality of Life向上に、創薬というフィールドから貢献していきたいと考えています。

最後に、後輩たちにアドバイスをお願いします。

早稲田は色々な価値観を持った人が集まっており、それが多様性として容認され、とても心地よく感じられる場所です。元気が良い(良すぎる)人が多く、これも早稲田の雰囲気を作っているのではないかと思います。社内で早稲田のOB・OGが集まる機会があるのですが、出身学部が異なっていても、あるいは立場的にはかなり上の管理職の方でも、すぐに打ち解けてしまいますね。とはいえ、研究所にはまだOB・OGが少ないので、今後、増えてくれると嬉しいです。

大学は自分から能動的に行動し、取捨選択していく場所です。必要だと思う知識があれば、学科の枠を超えて積極的に履修すれば良いだけです。私の場合、生化学反応についての知識を深めたかったので、応用化学科の「有機化学」を履修しました。また、重要ではあるものの、勉強だけが学生生活ではありません。同級生やアルバイト先の人たちとの交流を通して学ぶことも多くあります。自らが考えて選択する中で身に付く知識や行動原理が、その先の人生にも活きてくるのだと思います。

ぜひ、良く学び、良く遊んでください。それを許容する気風が、早稲田にはあります。

ありがとうございました。
聞き手・構成
武末出美(早稲田総研イニシアティブ)


※所属はインタビュー当時のものです。