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- 第8回 生命医科学科/生命医科学専攻 武田直也 准教授
細胞から大きな三次元の生体組織をつくる
再生医療の発展には、細胞から実際に生体組織を作り出す技術も重要であり、その研究も進めています。先ほどのMSCの研究では、平面の材料の表面に細胞を接着させて培養をしていました。これは二次元での培養です。しかし、生物の体は三次元で、しかも細胞は秩序をもって集積し組織を形成します。そこで、工学的に三次元の生体組織を作製するためには、細胞の培養場(培養足場)への工夫が必要になります。
私の研究室では、大きな三次元の骨格筋組織の作製に取り組んでいます。生体の発生においては、骨格筋は筋芽細胞という細胞が元になっています。筋芽細胞は縦に連なって融合し、筋管と呼ばれる組織を形成します。さらにこの筋管が筋繊維に成熟しながら束状に集まって(トリ肉のささ身を思い浮かべて下さい)、骨格筋となります。そこで、工学的に骨格筋を作製するために、この一連の動きを誘導し得る足場材料を開発しました。材料に用いたのは生体材料であるコラーゲンです。このコラーゲンで長さは1センチメートル、太さは数マイクロメートルの極細の繊維を作り、数マイクロメートルの間隔で向きを揃えて、ハープの弦のように張った足場をつくりました。ここで培養した筋芽細胞は、弦の上や間の360°の空間に保持されながら弦に沿って一方向に並び、さらに細胞同士の融合がおこり、筋管が形成されました。この筋管の形成が複数の弦において起こり、全長1センチメートルの巨視的な三次元の骨格筋組織を作製することに成功しました(図2)。さらに、この骨格筋組織は生体組織と同じ構造と機能をもつことも見いだしています。つまり、横紋とよばれる模様を示し、収縮する能力があるのです。
次のステップとして、この骨格筋組織に、やはり工学的に作製した神経組織をつなげて、神経からの情報入力によって筋肉を動かしたいと考えています(図3)。また、より大きな三次元組織を作り上げるには、組織の内部へ酸素や栄養分を供給し、老廃物を回収する血管組織も必要です。このような三次元の神経組織や血管組織も、生体材料工学の技術を駆使して構築を試みています。これらの機能をもった生体組織を、再生医療に役立てることを夢見ています。
早稲田大学と東京女子医科大学とTWInsと
私がバイオメディカルエンジニアリングの研究を始めたのは、早稲田大学の前に東京女子医科大学・先端生命医科学研究所に勤務していた時からです。病院に隣接する施設での研究を通して、いろいろな面で刺激を受けました。救急車のサイレンは実験室から毎日のように聞いていましたし、春になって陽気が良い時には点滴スタンドを引きながら散歩を楽しむ患者さんの姿を目にし、このような患者さんのために少しでも役に立つ研究がしたいとモチベーションが上がりました。研究所には生物学者や臨床の医師が多く参加されており、それまでに私が経験したことのない実験も行われていました。そんな実験者の傍に立って、(相手は迷惑だったかもしれませんが)「これはどんな実験なのですか」「ちょっと見せてもらってもいいですか」といったやり取りを通して、多くの教えや人との繋がりを得ました。それらは今でも大きな財産になっています。
その後早稲田大学に移り、「またすぐに一緒にできるよ」と別れを交わしたその場所に、現在では、早稲田大学と東京女子医科大学が共同で開いた「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」(通称TWIns(ツインズ)2008年竣工、先進Top Runner第2回参照)が建設されています。二つの大学は物理的な壁を取り払って一つの研究棟を共有し、私も一時離れたその場に早稲田大学の教員として戻り、東京女子医科大学の先生方と生体組織をつくる研究を進めています。病院の隣に研究施設をもつことは、物理的のみならず、情報を得る上でも、かつて私が感じたような研究者のモチベーションの向上の面でも、医学部を持たない早稲田大学にとって意義深いと考えています。
TWInsでは、早稲田大学の多くの若い学生諸子も研究活動に励んでいます。また、私が所属している生命医科学科は、工学、理学、医学出身の教員が集って融合研究を志向し、研究室間の壁を取り払ったオープンラボの実験施設を運用しています。他分野や他大学との融合研究を産みだしやすいTWIns・オープンラボという環境を大いに活用して、学生には積極的に研究の幅を広げて活躍してほしいです。
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